【米国によみがえる「黄禍論」日本人も人ごとではない!】「黄禍論」とは一体何なのか?~19世紀からの歴史を振り返って考える~


■日本人も人ごとではない! アメリカで広がるアジア系差別 女性蔑視と重なり深刻化

東京新聞 2021年4月24日

https://www.tokyo-np.co.jp/article/100129


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コロナ禍のアメリカで、アジア系に対する差別、暴力が深刻化している。

南部ジョージア州アトランタでは3月、マッサージ店3店で白人の男が銃を乱射しアジア系女性6人が死亡する事件が起きた。

加害者は必ずしも白人ばかりではなく、黒人らマイノリティー(人種的少数派)であるケースも目立つ。

相次ぐ事件は人種差別に女性蔑視が重なり、複雑で根深いこの国の負の歴史を浮き彫りにしている。 (アメリカ総局長・岩田仲弘)

 

・女性の被害者は男性の2.3倍


アジア系の人権団体「ストップ・AAPI(アジアン・アメリカン・パシフィック・アイランダー)・ヘイト」によると、コロナ被害が拡大し始めた昨年3月下旬から今年2月末までのアジア系への憎悪犯罪は3795件で、女性の被害者は男性の2.3倍に上った。


これらの事件で加害者は、相手の顔つき、体形だけをみて卑劣な犯行に及んでいるとみられ、日本人も人ごとでない。

今年2月25日夜には西部ワシントン州シアトルの中華街で、地元高校の日本語教師那須紀子さんが背の高い男から突然、石を詰めた靴下で顔を殴打された。


「私がレストランの前で車を止めている時から、男は道の向かい側からずっと私を見つめていた。パートナーの男性と落ち合って歩き始めると、男が近寄ってきて、彼の横からわざわざ身を乗り出して私を狙って襲ってきた」。


那須さんは、鼻3カ所とほおを骨折、歯2本を折る大けがを負った。

2002年に渡米して以来、身をもって人種差別を体験したのは初めてだという。


両親が日本出身で、東京五輪米国代表として空手の女子の形でメダルを目指すサクラ・コクマイ(国米桜)選手(28)は今月1日、米西部ロサンゼルス近郊の公園でトレーニング中、見知らぬ男から「負け犬、帰れ、おまえなんか怖くない」「中国人はむかつく」などと罵声を浴びたことを自らのインスタグラムで明らかにした。

男はその後、当地で韓国系の高齢者夫婦を殴ったとして逮捕、訴追された。


カリフォルニア州立大サンバーナディーノ校の「憎悪・過激主義研究センター」によると、シアトル、ロサンゼルスを含む主要16都市で、アジア系に対する2020年の憎悪犯罪は前年より約2.5倍に急増した。

 

・トランプ氏が「中国ウイルス」と呼んだ影響


白人社会がアジア系を経済的脅威とみなして抑圧する「黄禍論」は、疫病の歴史とも重なる。

1882年に中国人労働者の移住を禁ずる中国人排斥法が成立した背景には「中国人はマラリア天然痘ハンセン病を持ち込む」という思い込みがあったとされる。


コロナ禍の差別が過去と異なるのは、国の最高指導者であったトランプ前大統領と前政権幹部らが率先して新型ウイルスを「中国ウイルス」などと呼び、感染拡大の責任を中国に押しつけたことだ。


トランプ氏が昨年の大統領選で敗れ、人種間の融和を訴えるバイデン大統領が就任してもなお、差別、暴力がやまないのは、それほど影響が大きいからだろう。


ジョージア州立大のロザリンド・チョウ准教授は「米国でアジア系は(中国系や韓国系など)ひとくくりにされ、トランプ氏の暴力的な発言はアジア系全体に対する攻撃を招いた。トランプ氏にあおられた支持者が連邦議会の議事堂を襲ったのと同じだ」と指摘する。

 

・従順でエキゾチック 固定化した女性像


アトランタの事件直後、バイデン氏はカマラ・ハリス副大統領とともに現地を訪ね、「あまりにも多くのアジア系市民が道を歩きながら、襲われるのでは、非難されるのでは、嫌がらせを受けるのではないかと心配している。沈黙は共犯であり、声をあげて行動しなければならない」と事件防止を訴えた。


アジア系のハリス氏も第2次世界大戦中に12万人以上の日系人が人種差別により強制収容された歴史を「市民権、人権の明らかな侵害」とあらためて批判。

「人種差別、外国人嫌い、性差別は、今も米国に実在する」と認めた上で「私たちがそれぞれ国民として、いかに品格と敬意を持って人に接することができるかが問われている」と強調した。


アトランタの事件で男は「性依存症」を抱え、誘惑を断ち切ろうと店を襲ったとして憎悪犯罪ヘイトクライム)を否定したとされる。

そうだとしても犯行は差別と決して無関係ではない。

男は、アジア系女性を性欲の対象とみなして襲っているからだ。


「チャイナ・ドール」や「芸者ガール」など、アジア系女性には歴史的に従順、幻想的でエキゾチックといったステレオタイプに基づくイメージが常につきまとってきた。


チョウ氏はこうした「西洋の植民地主義に基づく画一的な見方」が「太平洋戦争、朝鮮戦争ベトナム戦争や、外国駐留米軍基地周辺の性産業を通じてますます膨らんだ」と分析する。


ハリウッド映画などの娯楽を通じてイメージはさらに拡散してきた。

「例えば、ベトナム戦争を題材にした映画『フルメタル・ジャケット』の中で、現地の売春婦が『私はムラムラしているの』と米兵に言い寄る場面がある。こうした女性像が大衆文化の中で固定化している」(チョウ氏)。

アジア系の女性は今も「人種」と「性」という二重に増幅された差別に苦しんでいるのだ。

 

・真の民主的な社会へ少数派の連帯が必要


シアトルの事件では、加害者が黒人だった。

これまで黒人差別解消を訴える「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」の抗議デモで、アジア系が連帯を示す姿を何度も目の当たりにしてきただけにショックだった。


それでも重要なのは人種間で対立せずに連帯を示し続けることだろう。

1950~60年代の黒人による公民権運動は他の少数派の人権向上に大きな影響を与えた。

日系人が戦時中の差別に対して声を上げ、88年、当時のレーガン大統領による公式謝罪に至ったのも公民権運動に依るところが大きい。


60年代にシアトルのワシントン大で、黒人学生運動の中心的存在だった市民活動家ラリー・ゴセットさん(76)は、黒人仲間から時に批判されながらもアジア系と連帯して少数派学生の地位向上に努めた。

「差別経験を共有する少数派との協力なしに、真に民主的な社会の実現はあり得ない」からだ。


相次ぐ事件の結果、少数派間で確執を起こせば、それこそ差別をいとわない白人至上主義者らの思うつぼになる。


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日本人も人ごとではない! アメリカで広がるアジア系差別 女性蔑視と重なり深刻化
東京新聞 2021年4月24日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/100129

 

 

 

 


■アジア系が狙われる理由 米国の偏見の構図 専門家と考えた
 
毎日新聞 2021/4/27 國枝すみれ

https://mainichi.jp/articles/20210426/k00/00m/030/087000c


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米国でアジア系住民に対するヘイトクライム憎悪犯罪)が増えている。

ニューヨークやカリフォルニアでアジア系の高齢者への暴行が相次ぎ、今年3月にはジョージア州でアジア系のマッサージ店が銃撃されて6人の女性が死亡した。

なぜアジア系がターゲットにされるのか。移民研究が専門の同志社大グローバル地域文化学部の和泉真澄教授と考えた。【國枝すみれ/デジタル報道センター】

 

・偏見を政治利用したトランプ氏


――現状を教えてください。


アジア系を狙うヘイトクライムを防ぐことを目的に作られた市民団体「STOP AAPI HATE」によれば、2020年3月から21年2月末までに3795件の通報がありました。

「国へ帰れ」などの暴言が68・1%、無視される、意図的に避けられるが20・5%、身体的暴力も11・1%あります。

職場での差別や公共交通機関の乗車拒否など公民権法違反が8・5%、オンラインでの嫌がらせが6・8%でした。

女性は男性の2・3倍も被害を受けやすく、犯罪は全ての州で起きています。


アジア系市民団体はコロナ感染拡大が始まった当初から積極的に動いています。

ニューヨークでは昨年7月、89歳のおばあさんが歩行中に着ていたシャツにライターで火を付けられる事件が起き、ボランティアによるパトロールが始まりました。

 

――原因は、トランプ前大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と言ったからでしょうか。

 

そうですね。

トランプ氏は大統領に当選する以前から、民族や人種間の憎悪をあおる炎上商法的な政治を展開してきました。

しかし今回の現象は、トランプ氏の個人的偏見と政治スタイルを超えた問題として、もう少し踏み込んで考えるべきだと思います。


トランプ政権には、政策を作る際に、国民全体の安全や社会の保全よりもトランプ氏の再選を最優先するという特質がありました。

コロナの感染が拡大するなか、トランプ政権は「コロナウイルスの危険性を過小評価し、科学的根拠に基づいたまん延防止政策を積極的にとらない」という政治的な選択をしたのです。

多くの人命がかかる公衆衛生・医療の危機的な状況下でさえ、自らの選挙戦略を優先するという明確な選択でした。


トランプ氏には、新型コロナウイルスを「中国ウイルス」「武漢ウイルス」「カンフルー(カンフーウイルス)」と呼び続けることにいくつかの政治的メリットがありました。

まずは、ウイルスが中国で発生したことを強調することで中国に責任を転嫁し、感染拡大防止策をとらないことに対する政権批判をかわすことができます。


また、中国との「対立の構図」を演出し、自分は米国を守る存在だと振る舞うことは格好のアピール材料となりました。

中国をスケープゴート(いけにえ)とすることで、他の問題から国民の目をそらすことができたのです。


さらに、トランプ氏を支持するメディアなどから、対立候補だった民主党のバイデン氏が「親中国的」であるというプロパガンダがネットで拡散されました。

ネガティブキャンペーンの材料としても使ったわけです。

 

――トランプ氏はコロナを政治的に利用しようとしたわけですね。

 

「中国ウイルス」などの言葉を使うトランプ氏と共和党議員に対し、アジア系の議員たちや市民団体は「アジア系への憎悪犯罪をあおるような発言は自制してほしい」と警告し続けました。

しかし、彼らはやめなかった。

つまり、単なる偏見や無知から発言しているのではなく、意図的な戦略であったと考えざるを得ないのです。


社会不安や経済状況への不満が高まると、副産物として暴力が生まれがちです。

そこにコロナ禍の不安や不満の矛先を中国に誘導するトランプ政権の政策が重なりました。

そうしたなか、アジア系への暴力が頻発していった。

加害者はトランプ支持者だけではありませんし、白人だけでもありません。

 

・黄禍論の亡霊

 

――一方で、アジア系への憎悪犯罪は昔からあります。

 

もちろん原因はトランプ氏だけではありません。

米国社会にある「黄禍論」(黄色人種脅威論)の伝統が、社会が危機に陥った際にアジア系への暴力や嫌がらせとして顕在化したのです。


外国人や移民を「社会の脅威」ととらえる考え方は昔からあります。

米国の場合、移民が感染症と関連づけられる歴史的要因がある。

19世紀半ばまでの移民船は衛生管理が悪く、感染症で多くの死者を出しました。

感染症流入を防ぐため、入国禁止や隔離といった検疫システムができていく。

初期の移民政策の一つの核心は、感染症の管理といってもよかったのです。


1882年に連邦政府による入国管理を本格的に定めた移民法が成立しましたが、同じ年に中国からの移民労働者(苦力、クーリー)の入国を禁止する中国人排斥法が成立します。

それまでは米国への入国は連邦ではなく各州がばらばらに管理しており、きちんと把握されていなかった。

連邦政府による入国者の選別は、感染症と中国人移民の管理から始まったのです。

つまり、反アジア人意識が米国移民法の根幹を作り上げたとも言えます。


感染症とアジア人。

トランプ氏は、米国人が歴史的に「脅威」と感じてきたこの二つを結びつけ、利用したわけです。


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アジア系が狙われる理由 米国の偏見の構図 専門家と考えた
毎日新聞 2021/4/27 國枝すみれ
https://mainichi.jp/articles/20210426/k00/00m/030/087000c

 

 

 

 

アメリカによみがえる「黄禍論」 アジア系差別の背景にあるものは

東京新聞 2021年5月16日

https://www.tokyo-np.co.jp/article/104454


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・道を歩けないほどの恐怖


「助けて。周りは中国人だらけ」。

米国で新型コロナウイルスの感染拡大が始まる直前の昨年2月、南部ジョージア州アトランタから西部ロサンゼルスに向かう機中。

中国系で同州立大准教授のロザリンド・チョウさん(43)は、前に座った白人女性が携帯電話を高くかざして、通路を隔てた隣のアジア系男性の顔をバックに自撮りしながら、こうメールを打つのを目の当たりにした。


「また歴史が繰り返されるのか」。

チョウさんはがくぜんとした。

中国人労働者の移住を禁ずる19世紀末の中国人排斥法、第2次世界大戦中の日系人の強制収容など、ヒステリーと恐怖の渦にのみ込まれた白人らがアジア系を抑圧する「黄禍論」の歴史がよみがえったからだ。


「これまでと違うのは、国の最高指導者(トランプ前大統領)が率先して新型ウイルスを中国ウイルスと呼び、差別を助長したことだ。道を歩きたくなくなるほどあからさまな脅威を感じるのは私自身、初めてだった」とチョウさん。

 

・アジア系は今も「外国人」


その後アジア系に対する差別や暴力は広がり続け、カリフォルニア州立大サンバーナディーノ校の「憎悪・過激主義研究センター」によると、主要16都市で昨年起きた憎悪犯罪は一昨年の約2.5倍に増えた。


差別の根底にあるのは、アジア系をいまだに「外国人」と決めつけ、遠ざけようとする空気だ。

例えば、多くのアジア系は「どこの出身か」と聞かれることにへきえきする。

「ニューヨーク出身だ」などと答えると、相手がけげんな顔をするからだ。


アジア系排斥の歴史が広く国民に知られていないことも、差別が繰り返される要因とされる。

人権団体「全米日系市民協会」特別研究員でフィリピン系と中国系の血を引くシャイアン・チェンさん(24)は、大学に入るまで日系人強制収容についてほとんど知らなかった。

「フィリピン系にも米国に植民地化された歴史がある。市民が広く米国史を学び、地域社会で共有していくことが重要だ」と訴える。

 

・トランプ氏の爪痕の深さ


バイデン大統領はその点を意識しているようだ。

今年2月、日系人約12万人の強制収容につながったルーズベルト大統領による大統領令から79年を迎えた声明で、強制収容を「不道徳的で違憲」「根深い人種差別、外国人嫌い、移民排斥の帰結」と、強く非難した。

アジア系への差別や暴力の多発が念頭にあったのは明らかだ。


ただその後も暴力の連鎖は断てず、3月にはアトランタでアジア系女性6人が銃撃され死亡する事件が起きた。

アジア系の人権団体「ストップ・AAPI・ヘイト」によると、昨年3月19日から12月末までに報告されたアジア系への差別や憎悪犯罪は計4193件。

今年は3月末の段階ですでに2410件に上る。

トランプ氏が残した爪痕はそれほど大きい。


米国でアジア系に対する中傷や暴力が絶えない。

なぜ今、標的にされるのか。

繰り返される差別の背景と課題を探った。

(前アメリカ総局・岩田仲弘)


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アメリカによみがえる「黄禍論」 アジア系差別の背景にあるものは
東京新聞 2021年5月16日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/104454

 

 

 


■人ごとじゃない!アメリカで相次ぐアジア系への差別や暴力… この「黄禍論」とは一体何なのか?19世紀からの歴史を振り返って考える。

公式 池上彰増田ユリヤYouTube学園

https://www.youtube.com/watch?v=yQawGJ72AhQ